『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』三上 延

2020.07.20 Monday

0
    『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』は、横溝正史の幻の書籍『雪割草』をモチーフに横溝小説のような家族の葛藤がテーマのミステリ。今回は成長した扉子ちゃんも活躍します。

    『ビブリア古書堂の事件手帖II〜扉子と空白の時〜』あらすじ


    前作では小学生だった栞子さん娘・扉子ちゃんが高校生になっており、そこから物語は過去へさかのぼっていきます。

    扉子は祖母・篠川智恵子から父・大輔が書いたマイブックと持ってくるよう言われる。友人家族が営むブックカフェで祖母を待つ間、マイブックを読みふける扉子。そこには過去、ビブリア古書堂が遭遇した本にまつわる「ビブリア古書堂の事件手帖」が書かれていた…。



    事実と虚構の二重構造


    この物語は、横溝正史の『雪割草』にまつわる時間の二重構造が興味深い筋立てでした。また、新聞小説を切り抜いて作る「自装本」というジャンルがあるのも初めて知りました。

    当時は新聞小説がすべて単行本になるわけではなく、自分で本や新聞の切り抜きを装丁する文化があったようですね。そういえば、江戸川乱歩も、新聞の切り抜きなどをスクラップにして装丁した『貼雑年譜』を作っていましたっけ。

    『第一章 雪割草I』


    上島家の当主・上島秋世が亡くなった。葬儀の歳、彼女が甥に譲るはずの『雪割草』の自装本が紛失してしまう。本の捜索を依頼された栞子さんと大輔は、横溝小説のようなそっくりな双子の老女に振り回されてしまう。

    第一章では、2017年に発見される以前の2012年を舞台に、世に存在しない『雪割草』を自装本として登場させ、そこに横溝正史の自筆原稿を絡めたミステリになっています。

    雪割草

    中古価格
    ¥1,480から
    (2020/7/20 10:55時点)




    『第三章 雪割草II』


    『雪割草』の原稿が発見され、再販後の2021年。9年前に解決できず、依頼人の家族にも深い溝ができたことを後悔していた栞子さんが、ふたたび上島家から依頼をうけることで、止まっていた事件が動きだします。

    ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔』でも、乱歩の架空の小説が出てきますが、ここではそのアイデアをさらに発展させ、未来の事実から架空の過去が描かれていくところが興味深かったです。


    横溝正史の原稿を書くときの習慣など、史実や真実を交えつつ架空のミステリ要素を配置しているんですが、それが見事で。本当に『雪割草』の自筆原稿があるんじゃないかと思えるんですよ。

    扉子というキャラクター


    子どもが親から引き継いだ能力を、パワーアップさせていくのがネクストジェネレーションものの定番ですが、扉子ちゃんもおそらく、篠川家で最強になるのかもしれません。

    ・智恵子さん…推理は本のため。それ以外には使わない
    ・栞子さん…推理は人のため。しかし、自分の能力(や美貌)に無自覚なところが事件につながる。極端な人見知り。

    そして、扉子ちゃんです。彼女も卓越した記憶力と推理力の片鱗をみせていますが、祖母、母と違うのは人とコミュニケーションがきちんと取れるところだと思います。

    その証拠に『獄門島』をモチーフにした話では、きちんと対等な友だちをつくっています。

    栞子さんは、夫の大輔くんをはじめ、周囲の人はみな、彼女を放っておけない「保護者」ポジションだし、智恵子とさんに関しては、友だちと呼べるひとがいるか…謎です。

    そして、扉子ちゃんは父親が書いた「事件手帖」の内容だけで、両親でも時間がかかった謎を解いてしまいます。母の推理力、父の洞察力を受け継いだ扉子ちゃんには、これからどんな本の謎が待っているんでしょうか…

    今後の展開


    もともと作者の三上延さんは「ビブリアの後日譚と前日譚を書くつもり」とコメントしていました。

    シリーズ後半で、栞子さんの祖父でありビブリア古書堂の創始者のエピソードが書かれていたので、私は戦前、戦後の古書の話が始まるのかとワクワクしていたのです。(そのため、難しい専門書も読んだ)

    しかし、扉子ちゃんという最強のキャラクターが現われたので、これから『ビブリア古書堂の事件手帖II』として彼女の推理を生かしたラノベ風味の学園推理モノとかになるのかな…。

    そりゃ、おじいさんの話より、美少女の方が受けがいいよな…とがっかりしていたら、これから前日譚も書かれるとあとがきにありました。うれしい…。

    そりゃ、理由が無ければ「あの」智恵子さんが、わざわざ孫に会いに来るわけがないもんな…今後の展開が楽しみです。

    ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ


    『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』
    『ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常〜』
    『ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜』
    『ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔』
    『ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜』
    『ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜』 
    『ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜』
    『ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜』

    JUGEMテーマ:ミステリ

    八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』阿部智里

    2020.07.15 Wednesday

    0
      八咫烏シリーズ外伝『ちはやのだんまり』。前回『はるのとこやみ』の、シリアスな話とは真逆の、ほほえましいラブコメに仕上がっています。登場人物がみんなかわいらしい…。

      『ちはやのだんまり』あらすじ


      雪哉と同じ勁草院出身の千早は、その戦闘力の高さから若君の護衛をつとめるほどの武人となったが、盲目の妹のことになると暴走しがち。そんな大事な妹が『結婚したい』と連れてきた相手が、まさかのチャラ男…

      結の相手、シンは定職にもつかず、結の好きなところを聞かれると「顔と声」と言う軽薄さ。もちろん反対する千早と結はその後大ゲンカ。

      千早の性格を知っている明留は、なんとか二人の仲をおさめようと、シンを呼び出すのだが…



      苦労してきた兄妹と、苦労症の姉弟


      阿部智里さんはこの兄妹が好きらしく、ちょくちょく外伝に書かれています。結ちゃんのお相手のシンくん、面白いキャラですね。「EXITの兼近か!」とツッコミを入れながら読んでいました。かねちと同じく、チャラそうに見えるけれど実は…なんですけどね。

      それにしても明留くん。四大貴族の、それも直系の御曹司だというのに、まわりから振り回され…いや、自分から首をつっこむのか、調停役が板についてきちゃいましたね。真穂の薄とともに、姉弟そろって苦労性だなあ…。

      明留と千早が出会う勁草院での学園ストーリー『空棺の烏』。明留くんも最初はなまいきだったのですが…
      真穂の薄と明留は、出自よりも自らの体験を通じて成長していくキャラクターなんですよね。そこが共感がもてます。


      弥栄の烏、その後の話


      『ちはやのだんまり』は、時系列的には、最終話『弥栄の烏』の後日譚です。その後、奈月彦が金鳥となり、浜木綿が皇后になっています。

      しかし、大紫の御前たちは、いまだ奈月彦の追い落としを諦めていないようで、子育ては宮中ではなくゆかりの寺で行っています。

      弥栄の烏』であれだけ痛い目をみたっていうのに、手を取り合うことなく内輪で争っているんですかね…。未来が語られる自作の八咫烏シリーズではどうなっているのか…

      『ちはやのだんまり』は外伝集『烏百花 白百合の章』に収録。描き下ろしも。


      八咫烏シリーズ


      『烏に単衣は似合わない』
      『烏は主を選ばない』
      『黄金の烏』
      『空棺の烏』
      『玉依姫』
      『弥栄の烏』
      第二部『楽園の烏』
      第二部『追憶の烏』
      外伝『すみのさくら』
      外伝『しのぶひと』
      外伝『ふゆきにおもう』
      外伝『まつばちりて』
      外伝『あきのあやぎぬ』
      外伝『ふゆのことら』
      外伝『なつのゆうばえ』
      外伝『はるのとこやみ』
      外伝『ちはやのだんまり』
      外伝『おにびさく』
      外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
      外伝集『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
      コミカライズ『烏に単は似合わない』
      コミカライズ『烏は主を選ばない1』
      『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
      『八咫烏シリーズファンブック』(電子書籍)

      江戸川乱歩著、宮崎駿解説『幽霊塔』

      2020.07.13 Monday

      0
        以前、黒岩涙香版の『幽霊塔』を読み、明治の独特な筆記体に苦しみつつも、物語の面白さに引き込まれたことを感想に書きました。

        こちらの『幽霊塔』は、涙香版をベースに江戸川乱歩がリライトをした、現代版(といっても昭和初期)の『幽霊塔』です。



        『幽霊塔』のざっくりとしたあらすじ


        北川光雄は叔父児玉丈太郎が買い取った『幽霊塔』と呼ばれる古い屋敷を視察に行った際、そこで不思議な美女と出会う。彼女は時計塔の秘密を解き明かすよう、光雄に言い残し去っていく。

        『幽霊塔』は幕末、渡海屋という商人がつくり、秘密の隠し場所へ財宝を隠したものの、そのまま行方不明となった伝説が残っていた。その後も、塔を所有した長田鉄という老婆が養女に殺され、その幽霊が出るといういわくつきのたてものであった。

        はたして、北川光雄のまわりでも奇怪な事件が起こり、その謎の中心にあの美女三浦栄子がいたのだった…。

        江戸川乱歩版『幽霊塔』のおもしろさ


        黒岩涙香版は、登場人物が日本名なのに舞台はイギリスだとか、時代がかった言い回しなど、現代の私たちが読むと混乱する文章が多々ありました。

        いっぽう、乱歩版は現代語で書かれているし、時代も下っているので現代の言い回しに近く(盆栽室→温室など)、混乱することなく読みすすめることができました。ありがとう乱歩先生…

        涙香版は新聞小説だったので、一話ごとに派手な展開が「盛って」あるのですが、乱歩版は盛られすぎた部分を削ったことで、読みやすく、恐ろしさや謎に集中することができました。

        涙香版が弁士が語る活動写真だとすれば、乱歩版はヒッチコックのサスペンス映画のような雰囲気です。

        涙香版『幽霊塔』の感想

        幽霊塔

        新品価格
        ¥0から
        (2020/7/13 18:56時点)




        まんがあり、絵コンテあり、超豪華な宮崎駿の解説


        岩波書店から出版された『幽霊塔』は、宮崎駿の口絵と解説がついています。ただ解説といっても、全ページカラーの幽霊塔の歴史と解説、原作『灰色の女』と涙香の『幽霊塔』、乱歩版への流れ、時計塔のデザインと断面図まで、とにかくもりだくさん。

        しまいには、ヒロインと主人公の出会いのシーンを絵コンテに起こしてあって、映画のビジュアルブックのような豪華さです。

        原作『灰色の女』から涙香版、乱歩版の『幽霊塔』へ、そしてカリオストロへ。通俗文化とよばれるエンターテインメント作品一連の流れが紹介されています。

        灰色の女 (論創海外ミステリ)

        中古価格
        ¥2,150から
        (2020/7/13 18:55時点)




        面白いのは、宮崎監督は幼い頃に乱歩の『幽霊塔』を読んで影響を受け、その江戸川乱歩もまた、幼い頃に黒岩涙香の『幽霊塔』を夢中になって読んでいたそうです。(そこの再現まんがが面白い)

        その黒岩涙香はというと、イギリスの小説を勝手に翻訳と脚色を加えまくり(当時著作権なんてものは無視されていた)大衆に受けそうな小説をジャンジャン量産していたのだとか。

        明治のはじめは西洋文化がどっと押し寄せてきたものの、まだ江戸文化が根強かったので、涙香版の幽霊塔は当時の読者にわかりやすいよう「外国が舞台で、日本人名の登場人物」という、今読むとねじれた構造になっていたのだそうです。

        こうして通俗文化の流れが、人から人へ、小説家からアニメ監督へと伝わっていき大きな流れになっているのは感慨深いものがあります。

        それにしても宮崎監督、よほど時計塔が好きなのか、涙香版、乱歩版の時計塔に加え、自らデザインした時計との間で何パターンもの時計塔を描いています。

        もういっそ、映画化してほしい…。

        漫画版『烏に単は似合わない』松崎夏未

        2020.07.07 Tuesday

        0
          阿部智里さんのファンタジーミステリ『烏に単は似合わない』のコミカライズ版が全4巻が完結。
          原作の雰囲気と展開をいかしつつ、独自の表現が素晴らしいまんがでした。

          いままで脳内で想像していた登場人物や、桜花宮の壮麗なお屋敷、宮烏たちの美しい衣装など、実際に絵になることでわかりやすく美しく、そして恐ろしく表現されています。



          『烏に単は似合わない』あらすじ


          人の姿をとる八咫烏の一族が暮らす山内。世継ぎの若君の正室「桜の君」を決める「登殿」には、山内の東西南北を納める大貴族の家から四人の姫君が選ばれる。

          東家の姫・あせびは、姉の代わりに急きょ「登殿」することになり、山内の中央、桜花宮へと向かう。夏殿には南家、秋殿には西家、冬殿には北家と、それぞれの家を背負った姫たちの美しくも雅な戦いの始まりだった。

          山内の事情に疎いあせびは、はじめのうち桜花宮の雅な暮らしに戸惑うものの、他家の姫たちと競いつつ交流を深めていく。やがて政治や家の事情が絡みあい、姫たちの闘争が深まるが、かんじんの若君は現れない。そして桜花宮で恐ろしい出来事が…

          詳しくはこちら→小説『烏に単は似合わない』



          コミカライズ『烏に単は似合わない』の魅力


          松崎夏未さんの表現力、すばらしいですね。もともと阿部智里作品のファンで、以前から八咫烏シリーズの絵をSNSでアップしていたのを阿部智里先生がみて、コミカライズに抜擢されたんだとか。

          作品のファンということで物語の理解度が高く、世界の再現力がとても高い。八咫烏シリーズの大発明システム「羽衣」から八咫烏に変わる描写もすばらしい。

          「羽衣」とは


          「羽衣」は、八咫烏が鳥から人になるとき、意識でつくる仮の衣のようなもので、羽を变化させたような黒の着物姿になります。(ただし、貴族たちは烏の姿になることはないし、やりかたも知らない)

          通常、ファンタジー世界で獣から人になるときは裸になってしまうので、いったん服の着脱が必要です。

          しかし「羽衣」というシステムがあると、いちいち着替える必要がないので、物語を中断させずに先へすすめることができるし、ビジュアル的にも美しい。ほんとこの「羽衣」を発明した阿部智里さん、天才だわ…

          そして、今回、その「羽衣」のシステムが物語の重要な鍵になっています。

          特に素晴らしいのが後半の描写


          とくに私が好きなのが、後半の描写です。前半は美しく、優雅に競っていた姫たちが一転、感情をむき出しにしていくところが、本当に見事。

          特に白珠のキレっぷりと、藤浪の焦燥の表情が醜くていい。高貴な姫は感情を表に出さないように教育されているのですが、そうした彼女たちが、人目もはばからずに醜い表情をむきだしにする姿が迫力がありました。

          白珠の出生はちょっと複雑で、美しい子をつくるため花街から遊女を見受けして子供を産ませたが、娘は醜くて、ようやく孫(白珠)に美しさが遺伝されたため、親から離されて登殿するだけのために育てられたから、なかなかそんな状況で自分の感情を出すことはできない。そうした鬱屈が一気に爆発していったシーンは迫力あります。

          他の家も似たりよったりでしょうが、北本家の女性たちには特に感情を揺さぶられます。幸せになってほしい…。



          ここからネタバレ


          私は小説を読んでから漫画を読んだのですが、結末を知っているからこそ、あせびの愛らしくも無垢な姿が恐ろしく思えます。漫画でも彼女だけなんですよ。激しい感情の起伏を見せないのは。

          最後、謎解きが終わってあせびの涙するシーン、あの1ページはすごい。
          美しいあせびの泣く姿、彼女の下には、たくさんの八咫烏たちの屍が敷かれている。
          あの絵だけで、あせびという姫のすべてを表していますね…。

          外伝『はるのとこやみ』では、本作にも登場したあせびの母、浮雲の話です。こちらも合わせて読むと、この母娘の行動にはゾッとさせられます…



          コミカライズでは『烏は主を選ばない』の主人公・雪哉も登場。この頃はまだ猫をかぶって…いや、初々しい少年のようでしたね。八咫烏シリーズは外伝含め、全てコミカライズしてほしいです。→『烏は主を選ばない』は2020年から連載開始



          八咫烏シリーズ


          『烏に単衣は似合わない』
          『烏は主を選ばない』
          『黄金の烏』
          『空棺の烏』
          『玉依姫』
          『弥栄の烏』
          第二部『楽園の烏』
          第二部『追憶の烏』
          外伝『すみのさくら』
          外伝『しのぶひと』
          外伝『ふゆきにおもう』
          外伝『まつばちりて』
          外伝『あきのあやぎぬ』
          外伝『ふゆのことら』
          外伝『なつのゆうばえ』
          外伝『はるのとこやみ』
          外伝『ちはやのだんまり』
          外伝『おにびさく』
          外伝集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
          外伝集『烏百花 白百合の章 八咫烏外伝』
          コミカライズ『烏に単は似合わない』
          コミカライズ『烏は主を選ばない1』
          『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』
          『八咫烏シリーズファンブック』(電子書籍)

          JUGEMテーマ:漫画/アニメ

          ローマ・ブリテン第二作『銀の枝』ローズマリー・サトクリフ

          2020.07.05 Sunday

          0
            ローマ後期のイギリスを舞台にした『第九軍団のワシ』。その主人公マーカス・アクイラの子孫たちが活躍するのが『銀の枝』の物語です。

            『銀の枝』あらすじ


            ローマ帝国の後期。外科医のジャスティンはローマからブリテンへ派遣される。そこで彼は百人隊長フラビウスと出会い、彼が同じイルカの紋章を持つ親族であることがわかり、親友となる。

            ジャスティンとフラビウスは、当時ブリテンを支配していた皇帝・カロウシウスに目をかけられていたが、ある日、狩りに行った島でアレクトス大臣が「海のオオカミ」と呼ばれるブリテンの男との密談を聞いてしまう。

            このことを皇帝に進言するものの、皇帝は受け入れず、反対に彼らは北の赴任地へ追いやられてしまう。やがて2人は、皇帝がアレクトスに暗殺されたことを知る。

            アレクトスに反旗を翻すため、彼らは行動を開始する。信頼する仲間を失い、長い苦難の末、家の祭壇の下から軍団の旗印である「ワシ」を発見し、寄せ集めの軍団の旗印とするのだった…。




            史実とフィクションの融合


            サトクリフは、発掘されたローマの遺物から、歴史を絡めた壮大な物語を作りだしてくれます。遺跡に刻まれた「槍の人 エビカトス」という文字から、部族をお追われながらも、部族のために戦う孤高の狩人が描かれました。

            旗印となる「ワシ」も、実際に発掘された場所につながるように、物語のクライマックスで登場します。
            それがもう、本当かっこいい。まるで歴史が、その場で作られていくのを見ているようでした。

            また、敵から追われた2人がそこから仲間を集めて、よせあつめの軍団を形成していき、最後に先祖のマーカスに導かれるように「ワシ」を反撃の旗印していくところも痛快でした。

            逆境から立ち上がり、寄せ集めの軍団をつくる展開は最近読んだ『十二国記』でもありましたが、やはり胸が躍る展開です。

            ただ、エビカトスの名前が史跡にどう残っていったのか、そのあたりも描いてほしかったかな…。

            『第九軍団のワシ』感想→

            第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

            中古価格
            ¥358から
            (2020/7/6 18:18時点)



            1