2018.06.12 Tuesday

『少女の友とその時代』遠藤 寛子

『少女の友』をモチーフにした伊吹有喜さんの小説『彼方の友へ』を読んでから、伝説の少女雑誌『少女の友』への興味が俄然わいてきました。

『少女の友とその時代』は、作家であり『少女の友』の愛読者であった遠藤寛子さんが雑誌関係者や愛読者たちへの丹念な取材をもとに書かれた研究本。『少女の友』伝説の主筆・内山基氏にスポットを当て、彼の業績についても紹介しています。

内山基氏は『彼方の友へ』で主人公が憧れる有賀主筆のモデルとなった人物。中原淳一氏とタッグを組み、上質な小説や詩、美しい付録、少女たちへの啓蒙など、雑誌を通じて次世代の少女たちの感性を育てたいと信念をもっていました。

「友ちゃん会」と呼ばれた読者の集いは、運営は少女たち自身が行っていたそうです。女が働くことが蔑まれていた昭和時代に自ら会場を手配し、人数を集めて会を進行する。こうした「少女たちが自ら考え行動すること」こそが内山主筆が『少女の友』で目指したことでした。

当時の投稿ページには作家の田辺聖子さんなどが名を連ねていたそうです。
少し文章が硬くて読みにくい面もあるけれど、当時の『少女の友』の雰囲気が伝わってきます。

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『彼方の友へ』で登場した美しい付録「フローラゲーム」のモデルとなった「フラワー・ゲーム」や「啄木かるた」など、当時の付録への制約を逆手にとった、今見ても美しい付録の数々。この伝説の付録は近年復刻されましたが、今やおとなになった女性の「乙女心」をくすぐります。これはほしい…!

『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セット

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遠藤寛子さんの著作を調べたら、「算法少女」を書かれた方だったんですね。

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2018.05.04 Friday

磯田センセイ、東奔西走『日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで 』

東に面白い古文書があれば新幹線に飛び乗り解読し、西に古墳や遺跡があれば行って発掘する。それが磯田道史センセイです。

「武士の家計簿」以来、磯田先生のファンになり著作を読んでいるのですが、磯田センセイがほかの学者さんと異なるのは、そのたくみな文章力と、類まれな好奇心だと思います。

歴史のことになると、たとえテレビであっても喋り倒す、興味がある遺跡には勝手にフレームアウトして見に行っちゃう。そんな磯田先生がまさに東奔西走して集めた歴史秘話を綴るこの一冊。『日本史の内幕』は、貴重な古文書から読み解いた歴史の内幕が、軽快な文章で綴られています。

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徳川埋蔵金のてがかり?


とにかく磯田先生、古文書をみつけだす嗅覚がすごい。日本全国を駆け回り独自の古文書ネットワークから貴重な資料を読み解いていき、それが時に重大な発見につながることもしばしば。

TBSがやっている徳川埋蔵金発掘事業(もう事業といってよい)、埋蔵金を埋めた張本人と言われる小栗上野介に関する古文書から「小栗が弐分銀を群馬の領地に埋めた」との一文を発見します。

しかしセンセイ自身は埋蔵金について「出る可能性は低いが、出るなら弐分銀」と書いてます。ええっ!(;・∀・)テレビでは出るっていってたじゃないすか!

行動する歴史学者


歴史家学者って文献をよんだり、遺跡を発掘するイメージですが、磯田センセイはそこにもうひとつ「行動」が加わります。

浜松にいらしたときは、遺跡発掘を市長に直談判、市民をまきこんだイベントにするわ、戯曲をかいてみたり、兜に香を焚きしめたりと、古文書にある記述を実際にやってみないと気が済まない。それが磯田センセイの魅力ですね。

ちなみに大河ドラマ「おんな城主直虎」も磯田センセイが制作側に(頼まれないのに)アドバイスを出したことで実現したらしいです。「直虎」を地元の人にもしってもらうため、野外劇をしかけたりと、まあとにかく動きます。




著作の映画化


「武士の家計簿」に続き、著作「無私の日本人」の短編が「殿、利息でござる!」として映画化された磯田センセイ。映画制作に関するエピソードを紹介しています。

「殿、利息でござる!」のあらすじは、仙台の貧しい宿場町の人々が金を出し合い、殿様相手の金貸し業をすることで町を救おうとする物語。あの手この手で節約をしてお金をためていきます。

映画化にあたり、当時の仙台藩主を誰にするかで制作側は悩んだらしい。主演・妻夫木聡、阿部サダヲという存在感のある役者に負けない「殿」として、フィギュアスケートの羽生結弦さんに白羽の矢が。確かに、羽生選手なら個性は揃いの役者を無効に回しても負けないですしね。羽生選手は故郷のためになるならと、この役を快諾してくれたそうです。

磯田センセイもカメオ出演されているそうですが、文書を夢中で読むのに夢中になってる姿が全く違和感なかったとか…。

DVD特別版「殿様版」には羽生結弦選手のメイキングもおさめられています。

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ところで磯田センセイ、映画「武士の家計簿」が縁で主演俳優・堺雅人さんと親友になったのだとか。いつの間に…そういえば堺雅人さんも歴史好きだし変わり者なのでウマがあったのかもしれませんね。

[映画]武士の家計簿の感想
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古文書はカビの生えた昔の記録ではなく、現代に生きる知恵がつまっている


東日本大震災以来、古文書に記された地震と津波の研究を(忍者研究をなげうって)続けてきた磯田センセイ。第七章では、古文書から読み解く災害時の人々の様子や復興について先人の知恵を書かれています。

昔の自社は先人たちの経験値によって地震や津波の影響の少ない場所に建てられていることが多く、また、津波の塩害で枯れた参道の木を寺社の再建に使っていたそうです。

復興の中心はこうした公共の施設が率先して行うことで、当時の被災者に仕事の提供を行う意味もあったそうですし、なにより「シンボル」が復興することが被災地に希望をもたらすのでしょう。

こうした先人たちの経験値を古文書から学び、明日の災害対策に用いねば…と思います。

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2017.09.13 Wednesday

『また、桜の国で』 須賀しのぶ

戦前のポーランドを舞台に、戦争の嵐のなかで、自らの思いを貫こうとした若者たち。その信念と友情を描いた『また、桜の国で』読了。須賀しのぶさんの近代(明治から昭和)作品はやっぱりすごい。激動の中に生きる人々の思いが詰まっています。

『また、桜の国で』あらすじ


日本大使館書記生・棚倉誠はロシア人の父をもつハーフ。誠はドイツからポーランドに向かう列車の中で、ドイツ人に暴力を振るわれているポーランド系ユダヤ人、ヤンに出会う。

ポーランド大使館へ赴任した誠は、極東青年会の代表イエジ、マジェナらと出会う。極東青年会とは、かつて親を殺され、シベリアから日本へ逃れた孤児たちにより結成された組織。誠は彼らを通じ、こどもの頃に出会ったシベリア孤児のカミルを探していた。施設から逃げ出したカミルは誠に「母と妹を殺した。」と告白していた。

ロシア系ハーフとして言われない差別を受け、日本を離れた誠、祖国ポーランドから見捨てられたユダヤ人のヤン、そしてアメリカ人ジャーナリストのレイ。自らのアイデンティティを求める3人の青年たちは、やがて戦争の渦中へその身を置くこととなる。

また、桜の国で
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嵐に抗う人々


独断でユダヤ人にビザを発行し続けたカウナス領事・杉原千畝は有名ですが、当時の東ヨーロッパの外交官たちも、戦争を回避すべく、自らを省みず、現地の人々のために尽くす骨太な方々がいました。

誠たちポーランド日本大使館もドイツとポーランドとの戦争を防ぐため、最後まで努力を続けますが、無情にもドイツはワルシャワへの攻撃をはじめ、ポーランドはドイツの支配下に。無差別の粛清、ゲットーのユダヤ人への虐待。それを黙ってみているしかないポーランド人…。

読んでいてドイツ人のあまりの鬼畜ぶりに恐怖と怒りを覚えるのですが、「じゃあお前ら日本人はアジアで何やったんだよ。」と言われたらぐうの音もでません。戦争は一方の視線だけで考えてしまうと、どうしても辛くなってしまうので、できるだけニュートラルな視線で読まないと…。

大事なのは、過酷な状況下でも道を見つけること。酒匂大使が去ったあと、あとを任された後藤副領事は、大使館の屋上に日の丸を描くことでポーランド人の職員を守ろうとします。(この時、ドイツは日本と同盟関係にあったので、日本大使館を攻撃できないから。)

やがて戦争は激化する中、ヤンはアウシュビッツ収容所に、イエジはレジスタンスに。しかし、ポーランド大使館員は国外退去を命じられてしまう中、誠は極東青年会や旧知のポーランド人とともにあるため、ある決断をします。

ロシア人と日本人の間に生まれ、日本人から拒絶されてきた誠は、「日本」がポーランドを裏切っても、自分だけは彼らを裏切るまい、それこそが彼の日本人としてのアイデンティティだったのかもしれません。

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ドイツのポーランド侵攻で思い出すのはチャップリンの「独裁者」。この映画のすごいところは、「戦争後」ではなく、「戦争中」まだヒトラー政権を握っていた時に作ったってことですよ。

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2017.08.20 Sunday

国芳の弟子たち『おもちゃ絵芳藤』谷津 矢車

幕末から明治にかけて、激動の時代を生きた絵師たちの物語。『おもちゃ絵芳藤』は、歌川国芳の弟子・歌川芳藤の視点で国芳の4人絵師たちの生き様を描いた物語。

『おもちゃ絵芳藤』あらすじ


歌川国芳が死に、弟子の芳藤は師匠の葬式を出すため国芳の娘たちや兄弟子たちを訪ねる。喪主をつとめるよう声をかけるが。色好い返事はもらえない。
しかたなく戻ると、そこには三味線をかき鳴らして大騒ぎする弟弟子たちがいた。

繊細で臆病な月岡芳年、豪放磊落な落合芳幾(幾次郎)、圧倒的な個性で一時代をつくった河鍋狂斎(暁斎)、彼らと協力しなんとか師匠の葬式を出しせたものの、追善絵の代表を一門から選ぶにあたり、芳藤は狂斎から「あんたの絵には華がない」と言われてしまう。

国芳の死を契機にして、時代は幕末の混乱から明治へと移り、芳藤ら絵師たちは苦境にたたされることになり…

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絵師の生きざま


芳藤の得意は「おもちゃ絵」という、双六など子供が使う玩具に使われる絵を得意とする絵師。国芳一門でも目立たない存在です。

世の中が明治に変わっても、相変わらずおもちゃ絵と、国芳塾を守ることを生業としている芳藤。その姿はかたくなで、弟弟子たちが仕事を世話しても、頑として譲らない。

読んでいて最初は、芳藤のあまりに平凡さ、時代にのれない頑固さを歯がゆくおもっていました。
お互い憎からず思っていた国芳の娘さんとの縁談も、亡き妻や師匠に遠慮して身を引いてしまうし。

けれど読み終わってみると、絵師という矜持を不器用なりに最後まで貫きとおしたその姿は、すごいもんだな、と感じずにはいられませんでした。どんな道でも、たとえ人から嗤われようとも最後まで貫き通す。
芳藤が国芳から受け継いだのは、技でも画塾でもなく、「絵師としての生きざま」だったのかもしれません。

でなければ暁斎が一世一代の仕事「枯木寒鴉図」を描くときに見届けてほしいとは思わなかったでしょう。

ひらひら 国芳一門浮世譚』にも芳藤が登場します。こちらは眼鏡男子として描かれています。

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幕末から明治期にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎。幼いころ国芳一門に所属し、その後、狩野派絵師として活躍しましたが、一部の絵には国芳の影響がみられるのだとか。おそらく国芳のもとを離れても付き合いはあったのかもしれません。

だから、『おもちゃ絵芳藤』で国芳一門と河鍋暁斎が絡んでいるのをみて、暁斎ファンとしてはうれしかったです。

歌川国芳も若いころ、葛飾北斎のところに出入りしていたと杉浦日名子さんの「百日紅」にもかかれているので、案外、他流の絵師たちの交流は多かったのかもしれません。

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おなじく、絵師の生きざまを描いた「眩」。こちらは葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)の生涯を描いた物語です。

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関連書籍
葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)の生涯を描いた『眩』
国芳一門を描いた漫画『ひらひら 国芳一門浮世譚』



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2017.03.17 Friday

意外な取り合わせの、バディ時代小説 『さなとりょう』

本が好き!の献本でいただきました。『さなとりょう』(プルーフ版)

歴史好きのひとならタイトルでお分かりになるでしょう。「さな」「りょう」は坂本龍馬の元婚約者千葉さな子と、龍馬の妻・おりょうのこと。なんと、この2人がタッグを組んで、龍馬暗殺の謎に迫る物語です。

『さなとりょう』あらすじ


坂本龍馬の元婚約者・剣の達人・佐奈は、鬼小町と呼ばれ、ゆすりまがいの元幕臣たちの訪問にも逆返り討ちにするほどの剣術の腕と度胸をもつ女性。しかし、元婚約者・坂本龍馬の死に、今でも心を痛めている。そんな佐奈の元に、龍馬の妻と名乗る・おりょうがやってきて、坂本龍馬を切った真犯人を探すと告げる。

どうやら、りょうの元に、龍馬暗殺の真相を知る人物から手紙が届いたらしい。マイペースにことを進めていくりょうに、佐奈も巻き込まれていき、いがみ合いながらも真相を探っていく。やがて推理の糸を辿った先には、思いもよらない人物が…。

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坂本龍馬の死によって、過去に思いをのこす佐奈とりょうが、この事件を通じて龍馬への思いにどう決着をつけていくのか、また、龍馬をめぐるふたりのバトルもみものでした。

龍馬暗殺にまつわる事件も「もしかしたら、こんなこともあったんじゃないか。」と思わせてくれ、いい意味で、歴史の中に嘘を混ぜ込むのがすごくうまい話でした。

ただ、歴史上の有名人の誰かが犯人、ということは見当がついてしまうので、謎解き的には今ひとつですが、物語のパワーが溢れていて、謎解きよりも、佐奈とおりょうが次にどんな行動をするのかが読んでいてワクワクしますね。

私はこれまで、行動力があって勝ち気なおりょうさん派だったのですが、読んでいておりょうさんに振り回される佐奈さんがちょっとかわいそうに思えました。だって、元カレの奥さんが現れて事件に巻き込むし、勝手に形見の品を焼いちゃうし。

ただでも、おりょうさんは龍馬のそばにいたから坂本龍馬を愛しぬくことの難しさと、龍馬の佐奈への秘めた思いを感じていたのでしょうね。(だから形見を焼いちゃったりしたのでしょう)

しかし、そんな佐奈さんも、最後にひとつ、報われます。この一文でおりょうさんの態度の謎や、ひいては歴史の事件の意外な謎解きにもなっています。

佐奈とおりょうが会っていたら…というのは、ほかにも里中満智子さんの『花影』でも描かれています。こちらはお互いの、龍馬への思いを吐き出していくといったお話です。

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おりょうさんのその後を描いた映画「龍馬の妻とその夫と愛人」

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2017.02.20 Monday

『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』 高槻 真樹

映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』読了。今は失われた戦前の映画を探す「探偵」たちを通して、映画黎明期から戦前までの映画の歴史と、幻の映画を追い求める人々の姿を追ったドキュメンタリー本です。


幻の戦前映画を探して


戦前、キネマ旬報などで名作と讃えられた作品は、いまではほとんど失われてしまい、見ることができません。それはどうも戦争の影響だけではなく、フィルムの性質(燃えやすい)、ずさんな上映体制など、複合的な理由によるものだそうです。

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現代では考えられない、戦前映画のトンデモな上映スタイル


・上映が終わったフィルムを、その場で裁断、販売することもあった。
・同じ脚本で違うタイトルの映画が撮られることがあった。
・上映側が勝手に編集、名前を変えて上映することもあった。

…もう、現代では考えられないですね。(;´・ω・)こうしたことが、映画を探すことを困難にしているのです。

海外で発見される日本映画


しかし、それでも少しずつですが、失われた映画が発見されていきます。名作「忠次旅日記」は父親の遺品の中から、「何が彼女をさうさせたか」は、ロシアで見つかりました。このロシアでの映画の売買に関しても、ソ連崩壊直後だからできた、ドラマチックな話がでてきます。

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戦前の日本映画が海外で発見されるのは、当時日本が植民地化していた台湾、満州、朝鮮、満州や、移民の多いアメリカへ輸出されたり、植民地へ侵攻してきたロシア(ソ連)などに接収された可能性があるからだとか。

確かに、アメリカ人と日系女性の恋を描いた映画「愛と哀しみの旅路 [DVD]」でも劇中で戦前の名オペレッタ「鴛鴦歌合戦」が使われていました。




映画探偵たち


今では幻となった戦前映画を探し出し、修復保存をおこなうフィルムセンターなどの公的機関から、民間で資金を募り収蔵、上映をづづける団体。映画のフィルムコレクターなど、一口に映画探偵といってもさまざまなタイプの探偵たちがいます。
無声映画の解説をおこなっていた活動弁士たちもコレクターだったんだそうで、これは、興行用のフィルムを自前で用意しなければならなかったための苦肉の策だったらしいのですが。

そして興味深かったのが、収集欲が過ぎて狂気的ですらあるコレクターたち。ときには人を騙してでもフィルムを手に入れたり、自分が貴重なフィルムを持っているかのごとく吹聴したり。

こうしたコレクターの闇はどのジャンルにも共通しているようで、前に読んだ古書コレクターの小説『せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)』を思い出しました。

これからもまだまだ、映画探索は続いてゆくのでしょうから、意外な場所で貴重な日本映画が発見されるかもしれません。
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2017.02.19 Sunday

北斎の娘、その一生。『眩 くらら』朝井 まかて

北斎の娘、お栄。北斎の弟子にして、女絵師、葛飾応為。彼女の一生を描いた朝井 まかて「」。

お栄を描いた話としては、江戸文化研究家の杉浦日向子さんの「百日紅」が有名ですが、「」は、百日紅のその後、お栄が嫁に行ったところからはじまります。

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一本の映画をみたような読了感


眩
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物語の冒頭、お栄は夫との暮らしに辟易し、外に出たついでに、ふらっと婚家を逃げ出してしまう。そこから北斎のもとに戻り、北斎を助けながら、ひたすら絵の道を極めて行きます。

北斎のもとに出入りしていた浮世絵師、善次郎(渓斎英泉)との絆とひとときの情、甥・時太郎の不行状に悩まされ、母を看取り、最愛の盟友・善次郎との別れ、そして北斎を看取り、自らも晩年を迎える…。

善次郎の野辺送りを、足を怪我しながら追いかけて見送る場面が、お栄の思いを移していて。とても好きです。善次郎は男女の仲を超えた、絵の道を目指した盟友でもあったのでしょうから。

やがて、老年の北斎を看取ったあとは養子にいった武家の弟の家にやっかいになるのですが、やがてそこもふらっと出ていき、新たに人生を始めていくところで終わります。最初と最後が同じ行動で、物語が完結しているんですね。

年をとっても新たな世界へ挑戦していく、心の赴くままに。豪胆で繊細、まさに自らの絵のような人生でした。

絵を傍らに読みたい本


『眩』には、北斎とお栄の描いた浮世絵や肉筆画がでてきて、その制作の様子が描かれます。まるで、本当に絵が描かれている様子を垣間見ているような、息を呑む制作風景。お栄や北斎が、いのちをかけて描いたものが、今、現代の私達が見ることができるのって、本当にすごいことだ、と思います。

北斎娘・応為栄女集
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2017.01.15 Sunday

戦国のプロジェクトX 『家康、江戸を建てる』

『家康、江戸を建てる』。タイトルは、「家康」ですが、本当に江戸をつくったのは、直接現場に携わる名も無き職人たちや現場を監督する奉行たち。彼らが困難なプロジェクトに挑む姿はまさに、戦国版のプロジェクトXの趣があります。

困難や悲劇はあるものの、土地を整え、水を引き、新開地江戸を建てていく過程は、新しい希望に満ちています。まだ海の物とも山の物ともつかない田舎が、やがて世界になだたる都市になっていくとは、家康も想像していなかったでしょう。

家康、江戸を建てる
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以下、特に気になった物語について。

流れを変える


今の利根川は、東京の東側を流れていますが、実はこれは、人の手によるもの。その利根川東遷事業に関わった伊奈氏三代の奮闘が描かれます。江戸に入府した家康はまず、湿地だった江戸を変えるべく、氾濫を繰り返す利根川の流れを変えるプロジェクトを立ち上げます。

このプロジェクト、数十年に渡って、伊奈氏が代々工事にたずさわってきました。大変な工事だったとはなんとなく知っていましたが、ここまでとは。バトンを受け継ぐ伊奈の男たちがかっこいい。

余談ですが、畠中恵さんもしゃばけシリーズの中で利根川東遷を描いています。こちらは、坂東太郎(利根川)の化身が工事を行う侍たちを妨害するもの。そこへ河童の総大将・禰禰子が人間に力を貸すことになる物語です。

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天守を建てる


これは職人ではなく、二代将軍秀忠が主人公の物語。江戸城天守の着工をを任された秀忠。家康から戦のない時代の天守の意味について問いかけられます。家康はなぜ、戦のない世に、あえて物見の役割を持つ天守を創造しようとしたのか。それも、大阪城や安土城の黒漆天守とは違い、白い漆喰の天守を。

家康の命題に答えようと、秀忠は必死で、答えを探していくのですが…。

歴史家の磯田道史先生が「秀忠が嫌いな日本人はいないでしょう。」とコメントされていましたが、家康のように戦国武将としてのカリスマ性はないものの、合理的で実直な秀忠は、現代の日本人の感覚に近いのかも。

家康が建てた江戸という街を、秀忠が発展させていく。為政者も職人も、そうやって次の世代にバトンが渡されていく。それは昔も今も、変わらないのかもしれません。

家康、江戸を建てる
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今も昔も、プロジェクトに携わる職人たちは、困難に遭遇すればするほど、燃えるようです。それは、現代の名も無き職人たちたちにも受け継がれています。


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2016.08.13 Saturday

大正時代の不良少女たち『くれなゐの紐』 須賀 しのぶ

大正時代の不良少女たちを描いた『くれなゐの紐』読了。須賀しのぶさんの作品は『芙蓉千里』以来だったのですが、彼女の描く少女たちは強くて弱くて、痛くて切ない。

『くれなゐの紐』あらすじ


失踪した姉をさがすため、日本最大の歓楽街、浅草六区へやってきた仙太郎は、生き延びるため少女の姿に変装し、スリに身をやつす。

ある日、姉からの絵葉書に写った浅草十二階の展望台で、1人の男と出会う。操と名乗る「彼」は、実は浅草六区を仕切る少女ギャング団「紅紐団」の団長であり、入団するなら姉の行方を教えるという。

はからずも、少年でありながら少女ギャング団へ加入することとなった仙太郎。紅紐団には、花売り娘のあや、副団長で売春元締めの倫子など、個性豊かな少女たちがいた…。

くれなゐの紐
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痛快小説だけじゃない、少女たちの痛み


不良少女たちが、才覚と度胸で少年ギャング団や、ライバルたちを席捲していく様は実に痛快でした。けれど、それは物語の中盤。さて、ラストにはどんな結末が待っているのか、と読み進めたら、結末は少し意外なものでした。

世間や大人たち対する復讐、ではあるのですが、そこにはかっこいい少女ギャングの姿はなく、紅紐団しかよりどころもたず、虚しくあがき、居場所を見つけられない少女たちがいました。

それは、カリスマ的魅力をもつ団長の操も同じで、みんなあがいている。そして、少年である仙太郎は外の目線から彼女たちの痛みを知るのですが、彼女たちに何もしてあげることができないのです。

こうした少女たちの姿は、今の少女たちにも通じるものがあります。あるいは「少女」とは、普遍的な存在なのかもしれません。




大正時代、物語に登場した少女ギャング団は東京各地に存在しており、丸ビルのタイピストが、売春斡旋で捕まったりしていたそうです。

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物語の出てきた浅草十二階(凌雲閣)は、明治二十年代に作られた浅草のランドマーク。物語の最後の2行に関わってきます。
浅草十二階 塔の眺めと〈近代〉のまなざし
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須賀しのぶ関連
芙蓉千里

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2016.07.26 Tuesday

『若様とロマン』畠中恵

畠中恵さんの若様シリーズ第三段『若様とロマン』今回は若様組にたくさんの縁談が舞い込んできます。

『若様とロマン』あらすじ


明治20年代、戦争の足音が迫る中、実業家・小泉家の当主は、開戦の反対勢力を集めるため、元旗本の巡査たち「若様組」に見合いを強要し、西洋菓子職人の皆川真次郎(ミナ)には渡米を薦める。

世話になっている御当主に逆らえず、しぶしぶ見合いを引き受ける若様組だったが、見合い相手の家から捜査を頼まれたり、見合い相手は入れ替わり、おまけに横恋慕の相手が現れるなど、前途多難。

果たして、彼らの見合いは成功するのか…?

子ども時代の終わり


小泉家の娘、沙羅と幼なじみの菓子職人の真次郎、若様組の長瀬。この3人は幼なじみであり、真次郎も長瀬も、沙羅に思いを寄せていました。けれども今回、彼らの関係には終止符が打たれます。といっても悲恋、という感じではなく、真次郎も沙羅も、自分の道を見つけて旅立っていきます。

本当は、2人が恋を実らせれば一番いいのでしょうが、それはまだ、先の話かもしれません。この中で、一番思い切りがよかったのは、やっぱり沙羅です。男二人は、沙羅の決断に引っ張られる形で進む道を決めねば、と思い立ったのですから。

おっとり強い明治女性


他の若様組のお見合い相手の女性たちも、明治時代のおとなしい女学生かとおもいきや、案外冷静に、若様組をみていたり、沙羅ほどではないにしろ、思い切った行動に出たりします。まあ、それくらいの女性じゃないと、若様組の奥様はつとまらないでしょう。

昔の女性は、結婚相手に、その後の自分の人生を賭けなければならなかったのですから。

若様とロマン
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