2018.12.16 Sunday

イスラム女子と日本女子の友情、最終章『サトコとナダ4』

サウジアラビアのナダと日本のサトコ。アメリカで出会った女の子たちは、国も宗教も育った環境も違うけれどルームシェアを通じて親友になりました。けれどサトコの留学が終わり、2人は別々の道を進むことになり…。


『サトコとナダ』、最終巻です。これまで日本人サトコからみたイスラム教徒の世界は新鮮で驚きに満ちていました。この漫画に出会わなければきっと、今でもイスラム教徒に対して多くの偏見を持っていたでしょう。

相手の宗教や風習に納得できないことがあっても、友達になれる」と、サトコは言いました。世界がサトコとナダのように、理解し合えたらいいな、と感じます。

サトコとナダ 4 (星海社COMICS)

新品価格
¥691から
(2018/12/16 02:33時点)




ナダの婚約


3巻ですったもんだありましたが、ナダとアブダーラさんの婚約が成立。ここで正式に二人は顔を合わせることに。

サウジアラビアでは
1.親が相手を決める
2.婚約(この時点で会えない、写真はOK)
3.男兄弟を介して相手との連絡が可能に
4.シャウファを行う←イマココ!

シャウファ(見る)とは婚約が整った男女が初めて顔を合わせて話すこと。見合い→婚約→結婚ではなく、サウジでは婚約→見合い→結婚なんですね。

シャウファでは友人や家族立ち会いのもと、見合いのように「あとは若いお二人で…」と、ナダとアブダーラさんはここで初めて話をします。医者になる夢のため、アブダーラさんを待たせることになる(だから嫌なら断ってください)と思うナダに、アブダーラさんはそんなナダだから結婚したいと。

アブダーラさん、いい人や…(´;ω;`)。イスラム社会って男尊女卑の印象があったので、アブダーラさんみたいな男性もいるのだなと思うとなんか嬉しいですね。アブダーラさんは姉のアフレイマさんにも頭が上がらないようなので、イスラム社会、必ずしも男性上位というわけではないのかも。

サトコとナダ 3 (星海社COMICS)

新品価格
¥691から
(2018/12/16 18:48時点)




インシャーアッラー、遠く離れても


そしていよいよ、サトコの留学期間が終りを迎えます。グレイスピリオド(留学終わり後、アメリカに数週間滞在が認められる制度)を利用してサトコとナダはふたり旅に出ます。

ナイアガラの滝ではサトコは国境が歩いて渡れることに感動し、ナダは一生分くらいの水量に感動するなど、育った国によって感動ポイントが違うのも興味深いですね。

ナイアガラの滝では2人で国境越え!ナダは親兄弟が一緒でないとできない国境越えを経験!

そしていよいよお別れの時、ナダはサトコに「インシャーアッラー」という言葉を教えます。意味は「もしも神様が望むなら」未来を語る時に使う言葉です。

また絶対会おう、と近い合ったサトコとナダ。遠く離れても心は通い合っていて、数年後2人は再会するのですが…。
未来の2人の近況はぜひ、コミックスで♪

そして、こんな本も。『サトコとナダ』から考えるイスラム入門 ムスリムの生活・文化・歴史ではユペチカさんがイラストを描き下ろしています。こちらも楽しみ。

『サトコとナダ』から考えるイスラム入門 ムスリムの生活・文化・歴史 (星海社新書)

新品価格
¥1,058から
(2018/12/16 18:10時点)




[まとめ買い] サトコとナダ

新品価格
¥1,977から
(2018/12/16 21:53時点)


2018.12.11 Tuesday

やりたい仕事と向いてる仕事『校閲ガール トルネード』宮木 あや子

『校閲ガール』シリーズも最終巻(?)。『校閲ガール トルネード』では悦子やその仲間たちにも、自分の仕事について考える時期がきているようで…。

辞令はある朝突然に


ファッション誌『Lassy』に憧れ、校閲部からなんども異動願いを出していた悦子に、ある日突然、辞令がおりた。

『Lassy』の結婚情報誌『Lassy noces』への1年間の期間限定だったものの、あこがれの雑誌編集の世界へ近づけることに喜ぶ悦子だったが、ファッション誌のの編集はとにかく激務。編集の仕事になかなか慣れず、おまけに憧れの雑誌『Lassy』の編集長は『noces』の編集長と犬猿の仲で、二人のバトルも気が気でない。

校閲ガール トルネード (角川文庫)

中古価格
¥328から
(2018/11/25 01:08時点)




悦子は校閲部長の「今の部署で実績を上げれば希望の部署に移動できる」という言葉を真に受け、ファッション誌を読むことと、校閲の仕事の精度を上げることにばかりエネルギーを注ぎ、肝心の「Lassyで何をすべきか」を全く考えてなかったんですね。

悦子の仕事も恋も思い込んだら猪突猛進なところは読んでいて小気味いいのですが、本当にやりたい仕事につきたいのなら、ちゃんと仕事の内容調べたり、企画考えたりしておくべきでは…と思ったり。

そうはいっても持ち前の直感と推理力で、雑誌の内容から編集長同士のいさかいを探り当てる能力はさすがです。

「辞令はある朝突然に」、タイトルの元ネタはこちら。

フェリスはある朝突然に (字幕版)

新品価格
¥199から
(2018/11/30 22:25時点)




校閲ガールの成長


一目惚れの作家(兼モデル)の是永と両思いになったり、憧れの部署(に近いポジション)に移動できたりと、悦子の人生は順風満帆…と思われましたが、実は夢って叶えてからが重要で、それを続けるのがいちばん難しいのです。

そんな中、同期の編集者・森尾はモード系の高級ファッション誌にヘッドハンティングされ、恋人の是永も仕事で海外へ行くことになり、悦子についてきてほしいという。

やりたいけれど大変なファッション誌の仕事、向いている校閲の仕事、恋人についていくか、それとも日本に残るのか。悦子にも、周囲の人々にも新しい選択をする時期がきたようです。

就職して2〜3年というのは、ようやく仕事に慣れて周りが見えてくる時期なので、そこから自分がどんな仕事をするのか考える時期なのかもしれません。

悦子はとても成長しましたね。今までは自分の好きなものや好きなことにしか興味がなく、思ったことには猪突猛進でしたが、校閲の仕事を通じて知り合った人や小説が、彼女に影響を与えていったようです。

悦子のことですから、どんな道を選んでも、突き進んでいくことでしょう。校閲ガール悦子に幸あれ。

校閲ガール ア・ラ・モード (角川文庫)

中古価格
¥158から
(2018/12/10 23:55時点)




校閲ガール (角川文庫)

中古価格
¥1から
(2018/12/10 23:56時点)




2018.12.07 Friday

守り人シリーズ 外伝『風と行く者』

転生したら人生が逆転し、現実では得られない力で異世界で活躍するファンタジーが流行っていますね。現実の鬱屈を異世界で晴らす、こうした「異世界もの」は私も好きで、読んでいて痛快な気分を味わえます。

しかし、「精霊の守り人」はそんな「ご都合主義」のファンタジーとは一線を画する重厚な物語です。ファンタジーの要素はありますが「不思議なものが現実より少し身近にある」くらいで、あとは土地の風俗や歴史、宗教など人々の暮らしの描写が大半を締めています。

超常的な力は存在しますが、それを使って世界を変えることはできません。変えるのはいつだって人間なんです。弱い存在の人間が運命に抗い、必死に生きる姿。それこそが上橋作品の読みどころではないでしょうか。

軽装版 風と行く者 (軽装版 偕成社ポッシュ)

中古価格
¥1,050から
(2018/12/6 00:04時点)




『風と行く者』あらすじ


『天と地の守り人』での戦から1年余り。バルサはつれあいのタンダと隣国ロタに近い草市へ。そこで昔、共にした旅芸人サダン・タラムたちと再会する。奇妙な縁に惹かれるようにバルサは再びサダン・タラムの護衛となり、彼らが鎮魂の儀式を行うロタ北部の聖地エウロカ・ターンへ旅をすることになる。

かつて養父ジグロと護衛したサダン・タラムは、旅芸人でありながら、鎮魂儀礼を行う集団でもあった。彼らが供養するのはロタとターサ、2つの氏族が昔争った戦場。旅を続けるうちサダン・タラムの美しい頭領サリと、ジグロとの間には親密な関係があった。バルサはサリの娘、エオナがジグロの子ではないかと考えるのだが…

過去と現在が交錯し、死者は生者の思い出の中で蘇る


物語は20年前と現在が交錯しながら進んでいきます。かつて命を狙われたサダン・タラムの頭サリを助けた縁でジグロと少女だったバルサはそのままサダン・タラムの護衛士となります。

まだ若いバルサは短編『十五の我には』のときから少し落ち着きましたが、まだまだ未熟で、そんなバルサをジグロは厳しく、ときにやさしく指導していきます。追っ手に追われ、命がけの仕事の中ですがジグロの恋(と呼べるかは微妙だけれど)やバルサの成長が読んでいてうれしい。

過去として語られるけれど、この瞬間、確かにジグロは生きています。今は亡き懐かしい人も、生者の思い出の中で行き続けているのです。

軽装版 炎路を行くもの 守り人作品集 (軽装版 偕成社ポッシュ)

中古価格
¥443から
(2018/12/6 23:51時点)




「送り」の物語


上橋先生は「子供向けに物語を書いているわけではない」と語っておられます。確かに『風と行く者』は子供にはまだ理解しがたい描写も数多く、大人が読んでこそ作者の思いが伝わるのではと、思います。

でも、子どもたちも読んでほしい。そうして、おとなになってから読み返してほしい。きっと後から「そういうことだったのか」と理解できると思うから。

精霊の守り人の主人公・バルサは理不尽な王の陰謀により、養父のジグロと故郷を追われた過去があります。『闇の守り人』では過去の因縁や複雑なから思いからの解放で、ほんとうの意味で亡き人を懐かしみ、偲ぶのができたのが『風と行く者』だと思うのです。

闇の守り人 (新潮文庫)

中古価格
¥1から
(2018/12/7 15:49時点)




この物語を書く前に、上橋先生は最愛のお母様と、長年『精霊の守り人』シリーズの挿絵を努めた二木真希子さんを亡くされています。
ジブリ作品に携わったアニメーター二木真希子さんが死去

特に、お母様は上橋先生のエッセイにも登場しますが、好奇心旺盛な方で、さまざまなインスピレーションを上橋先生に与えてくださった存在でした。

愛する人を送り、自らの生き方を考える。そんな人生の半ばに差し掛かった中年の私が読むと、またぐっとくるものがあります。バルサのこのセリフこそが、愛しいものを送った経験をもつ上橋先生の言いたかったことなんじゃないかな、と思うのです。

思いは血に宿っているわけじゃなくて、生きてきた日々のあれこれに宿っているものなんでしょう


明日は、いずこの空の下 (講談社文庫)

中古価格
¥79から
(2018/12/6 23:57時点)




おまけ


ジグロの恋人であったサリの娘エオナは母親譲りの美しさを受け継いでますが、もし、エオナがジグロの娘でジグロ似だったら、おそらくこんな感じになるんじゃないかと想像しちゃって…すみませんほんとすみません…

女の友情と筋肉(1) (星海社COMICS)

中古価格
¥1から
(2018/12/6 14:21時点)




上橋作品感想


「物語ること、生きること」→
「精霊の守り人」→
「闇の守り人」→
「夢の守り人」→
「天と地の守り人」→
外伝「流れ行く者」→
外伝「炎路を行く者」→

精霊の守り人レシピ集「バルサの食卓」→
「<守り人>のすべて 守り人シリーズ完全ガイド」→

2018.10.23 Tuesday

『校閲ガール』宮木 あや子

ずっと読みたかった『校閲ガール』読了。校閲とは書籍や雑誌の記述や考証をチェックして間違いを正すお仕事。そんな校閲のお仕事には、てっきり「本にまつわる謎とき」があるのかと思いきや…。

校閲ガール (角川文庫)

中古価格
¥1から
(2018/10/23 18:16時点)



校閲ガール、河野悦子登場!


河野悦子はファッション大好き女子。おおよそ小説にも活字にも興味がなく、校閲部にいるのも憧れのファッション雑誌「Lassy」の編集部に入れなかったから。

しかし彼女はすぐれた記憶力と直感力で、小説の齟齬を見つけ出し、作家の意図を探り当ててしまう。こう書くと、いかにもミステリ小説風ですが、実は『校閲ガール』は「お仕事小説」あるいは「恋愛小説」に近く、ミステリ要素はおまけと言った感じ。

それにしても、小説内の電車移動の時間までわかるなんて、やっぱり校閲ってすごい仕事だなあ…。

校閲ガール ア・ラ・モード (角川文庫)

中古価格
¥36から
(2018/10/23 19:20時点)




でも、悦子をはじめ登場人物たちが個性的で、オネエっぽい同僚・米岡くんや、作家絡みのトラブルに悦子を巻き込む貝塚とのやりとりが面白くて、だんだんミステリ展開に期待するのどうでもよくなってきましたww

校閲のさまざまな仕事をするうちに、だんだん校閲の楽しさにも目覚めていく悦子。そんな彼女の仕事への成長とか、偶然知り合った覆面作家・是永 是之との恋の行方もきになるところ。

悦子の唯一無二の目標は「ファッション誌への移動」で、校閲の仕事はその手段に過ぎないし、「好きなのは顔」と、堂々と言い放つ。

本好きでファッションに疎い私からすれば、ちょっと気後れしてしまうのですが、自分の好きなものがしっかりとあって、それが揺るがないのは読んでいて気持ちがいいです。
本当は校閲部でもっといろいろ活躍してほしいですが、一方で悦子の目標がかなってほしいなとも思います。

校閲ガール トルネード (角川文庫)

新品価格
¥605から
(2018/10/23 19:22時点)





校閲が活躍する物語


こちらもおすすめ!『重版出来!6』では、忠臣蔵の討ち入りの時の天気までもチェックする校閲さんのプロ知識がすごい。

重版出来! (6) (ビッグコミックス)

中古価格
¥1から
(2018/10/23 18:23時点)





多様な作家・宮木あや子


作者の宮木あや子さんてR-18文学賞の『花宵道中』書かれた方なんですね。ジャンルの違いにびっくり。もっと他の作品も読んでみたくなりました。

花宵道中 (新潮文庫)

中古価格
¥1から
(2018/10/23 18:47時点)


JUGEMテーマ:オススメの本



2018.09.26 Wednesday

ビブリア古書堂、その後の物語。『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち』三上 延

『ビブリア古書堂の事件手帖』の続編が出ました!シリーズ完結から、栞子さんと大輔くんのその後の物語が描かれます。なんと、二人の間には小さな娘が!

物語は、栞子さんによく似たこの「扉子」ちゃんに、栞子さんがこれまで起きた本にまつわる話を聞かせるといった手法がとられています。これまでのビブリア古書堂シリーズに登場した人々も出演します。

それにしてもあのふたり、いつの間に結婚、そして娘まで…。

ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~ (メディアワークス文庫)

中古価格
¥580から
(2018/9/25 00:03時点)




二人の娘・扉子ちゃんは利発で本好き。本にまつわる感の鋭さは栞子さん譲りです。性格は明るくて栞子さんの妹文香ちゃんに似ているけれど、本に関する好奇心は大人顔負けです。
これまでのビブリアシリーズのように、1冊の本にまつわる謎を紹介しているのですが、その間にサイドストーリーとして栞子さんと扉子ちゃんが出張中の大輔くんの本を探すと言ったストーリーが添えられています。

その本がなんだったのか、どうしてそれを、娘に見せたくなかったのか、それが最後にわかる仕組みになっています。私が推理したのは二人の出会いのきっかけになった夏目漱石の「それから」でしたが…。

北原白秋 与田準一編『からたちの花 北原白秋童話集』(新潮文庫)


『ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』に登場した坂上昌志としのぶ夫妻。夫の昌志は過去に罪を犯して刑務所に入っていた過去から、親戚と断絶していたが、昌志の兄である父親に頼まれた姪・平尾由紀子が夫妻のもとを尋ねることに。

父から叔父へ渡すように頼まれたのが『からたちの花 北原白秋童話集』だった。犯罪者として親戚から嫌われていた叔父の、優しくも悲しい身内との思い出が解かれていく。
「みんなみんなやさしかった」の歌詞がこの物語の謎がわかると、とても切ない。坂口さん、しのぶさんと結婚して幸せになれてよかった…。

からたちの花―北原白秋童謡集 (新潮文庫)

中古価格
¥480から
(2018/9/26 19:18時点)




ビブリア古書堂の事件手帖 〜栞子さんと奇妙な客人たち〜 (メディアワークス文庫)




『俺と母さんの思い出の本』


栞子の母・智恵子の友人である磯原未喜から、急逝した息子との思い出の本を探してほしいとビブリア古書堂に依頼が着た。手がかりはほとんどなく、息子のマンションで彼の妻から事情を聞くも、具体的な確証は得られない。

ゲームとイラストが好きでクリエイターとなった息子と、資産家で「まっとうな」仕事についてほしいと英才教育を押し付けた母との思い出の本とは一体なんなのか。

今回、ほとんどヒントがなくて、どうやって探し出すんだろう?と思っていたら細部にヒントが隠されていました。いつものことながら栞子さんの洞察力が冴え渡ります。ゲームは不得手とはいえここまで確信にせまれるとは…。

あと、この回に登場する急逝した息子の親友の存在は切ないですね。友人は有名クリエイターになったのに、自分はライトノベル作家として鳴かず飛ばずで、その格差に苦しんだり。持たざる者の苦悩も描かれます。

にしても、クリエイターと年の離れたコスプレイヤーの夫婦って、どこかで聞いたような…

佐々木丸美『雪の断章』


こちらもビブリア古書堂の事件手帖の常連、ホームレスでせどり屋の志田と、あるきっかけで彼と親しくなった女子高生の小菅奈緒の物語。ある日、奈緒は志田の住む河原で一人の少年に出会う。自分と同じように志田と本の話をする「生徒」らしい。

やがて志田が失踪し、心配した奈緒は、その少年・紺野祐汰とともに志田の行方を探していくうちに紺野が秘密を抱えていることに気がついて…。

今回は栞子さんは登場せず、奈緒がひとりで推理します。奈緒は以前、栞子さんの鋭い洞察で自分の恋心まであばかれたことで苦手意識を持っているようで。確かに、栞子さんて自分の興味に関して暴走するところがあるからなあ。
母の智恵子さんほどではないにしろ、ちょっと人の気持ちを忖度しないところがあるから。

まあ、今は大輔くんがついているので大丈夫ですが、今度は娘の扉子ちゃんが暴走しそうで、栞子さんがあたふたしています。

雪の断章 (創元推理文庫)

中古価格
¥1から
(2018/9/26 19:01時点)




内田百聞『王様の背中』


最終巻で栞子、母・智恵子とシェイクスピアの初版本を巡って破れた古書店主・吉原喜市は敗北のショックから倒れ、今は仕事を息子に任せていた。息子の考二は古書の引取に訪問した家で、一足違いでビブリア古書堂が買い取ったと聞かされる。

諦めきれず買い取られた本を見てみようとビブリア古書堂を訪れた考二は、ある理由で本を売った家の息子と勘違いされたことで、本を持ち去ろうと試みるが…。

扉子ちゃん、恐ろしい子…(,,゚Д゚) 純粋無垢であるがゆえに相手を追い込んでゆきます。吉原親子側がどうみたって悪いのですが、本に関して圧倒的な知識と洞察力をもち、時に強引に事を運ぶ篠川家の遺伝子を前にしたら、こんな気持になるのも、わからんでもないんだよなあ…と、凡人の私などは思うのです。


内田百聞先生は鉄道マニアで『阿房列車』などが有名ですが、子供向けの本も書いていたんですね。同じく夏目漱石門下で先輩だった『赤い鳥』の鈴木三重吉さんの影響なんでしょうか…?

王様の背中 (福武文庫)

中古価格
¥600から
(2018/9/26 18:46時点)




後日譚と前日譚


今回はビブリア古書堂の事件手帖、登場人物のその後の物語でした。なんにせよ、栞子さん大輔くんカップルが幸せになってよかった。今回は「後日譚」だそうですが、あとがきを読むと「前日譚」を書く予定もあるそうで。

栞子さんの父方、母方の祖父(両方とも古書店主)の因縁とか、戦前から戦後にかけての古本事情なんかも織り交ぜて書いてほしいなと思います。

ビブリア古書堂の事件手帖 ライトノベル 全7巻 セット

中古価格
¥2,250から
(2018/9/25 00:09時点)




「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち」
「ビブリア古書堂の事件手帖2〜栞子さんと謎めく日常」
「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆」
「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さん2つの顔」
「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時」
「ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ」 
「ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜」

JUGEMテーマ:ミステリ

2018.08.12 Sunday

夢を組む人。『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』ほしお さなえ

川越を舞台にした活版印刷三日月堂シリーズもいよいよ完結。これまで三日月堂に関わった人々も登場し、主人公の弓子さん本人の物語が組まれていきます。

私は前回の感想で「弓子さんが幸せになりますように」と書いたのですが、今回その答えがでます。それは嬉しいような、もう三日月堂の人々と会えないのが少し切ないような、そんな気持ちです。

活版印刷三日月堂 雲の日記帳 (ポプラ文庫)

新品価格
¥734から
(2018/8/9 22:48時点)




『星をつなぐ線』


本町印刷の長田はプラネタリウム星空館のリニューアルに際し、創業時の星空早見盤を復刻したいと相談される。印刷に詳しい後輩の悠生のとともに三日月堂を訪れる。

その星座早見表は表の原版しか残っていない状態だったが、弓子さんが偶然が昔の星座盤をもっていたため、なんとか復刻にこぎつけることに。

『星をつなぐ線』て、すてきなタイトルです。星座を表した言葉ですが、三日月堂も活版印刷で人と人とをつなげていきますね。そして弓子さんもまた、星が好きだったお父さんとの思い出のプラネタリウムの仕事をすることになりました。星も人も、線がむすばれ、つながっていくのは読んでいるこちらも嬉しくなります。

星座早見盤とは月日のや経度の目盛りにあわせて回転させ、その日、その方角の空に浮かぶ星座をみることができるグッズ。天体観測にも利用されます。

星・月の動きA型

新品価格
¥721から
(2018/8/12 19:33時点)




そして前作でも登場した悠生くんが再登場。長田さんとの会話でどうやら悠生くんは弓子さんのことが好きらしい。うまくいくといいなあ。(●´ω`●) あ、でもデザイナーの金子さんはどうなるの?彼はちがうの?

『街の木の地図』


大学生の豊島つぐみはゼミで「川越の街をテーマにした雑誌」の製作・販売を行うのだが、自己中の男子、草壁くんと、引っ込み思案の女子・安西さんと同じグループになり先行きに不安を感じつつも川越に取材にいくことに。

アルバイト先である星空館の星座早見盤がきっかけで、3人は三日月堂に見学に行き、三日月堂での体験をきっかけに「活版印刷でつくる街の木の地図」をテーマに雑誌をつくることになるのだが…。

一緒に作業をしていくうち、草壁くんも、安西さんにも最初の印象とは違う一面がみえてきて、つぐみたちはなにかひとつ、自分の中に確かなものをみつけたようです。

また、この章では以前『庭のアルバム』で登場した高校生の楓さんも登場します。
彼女もまた進むべき道がわからず、あがいていた頃からだいぶ成長していました。若者たちが成長していく姿は読んでいて楽しいなあ。

([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)

中古価格
¥280から
(2018/8/12 16:55時点)



そしてここで驚き情報。三日月堂と懇意のデザイナーの金子さんには別に恋人がいるとのこと。お相手も以前登場した(『海からの手紙』)司書の小穂さんなんですって。このふたりのなれそめも、外伝とかで書いてほしい…。

([ほ]4-2)活版印刷三日月堂: 海からの手紙 (ポプラ文庫)

中古価格
¥237から
(2018/8/12 16:58時点)





『雲の日記帳』


大学生たちがお世話になった古本屋『浮雲』の店主・水上さんのお話。彼は古本屋を営みながらひっそりと暮らしていた。彼はかつて将来を嘱望された作家候補だったが、自分の言葉が人を傷つけてしまった経験から筆を折ってしまった。ただ、店の冊子に書いている『雲日記』は評判が高く、三日月堂の弓子さんもスクラップしているほどだった。

あるとき、大学時代の友人・岩倉が訪ねてきたことで、水上の言葉を本にしたいと提案され、水上は自分の過去と向き合うことになる。

壮絶な過去を経験し、静かに人生を終わろうとしていた水上さん。彼もまた、三日月堂と出会ったことで過去を振り返り、自分の人生を見つめ直そうと考えます。水上さんは、亡くなった弓子さんの父親に状況が似ていて、2人が話すことですこし、お互いの悲しみや苦しみが昇華できたのでは、と私は思います。

この水上さんの「雲日記」を書籍化することが物語の最後の流れにつながります。

おまけ:古書店主の文章


古書店主は昔から文章が巧みな人が多く、この「昔日の客」は、かつて東京・大森で古書店『山王書房』を営んでいた関口良雄氏の随筆集。古書にまつわる日常や作家たちとの交流が洒脱な文章が多くの本好きに愛されています。

昔日の客

中古価格
¥1,500から
(2018/8/12 21:14時点)




『三日月堂の夢』


これまでたくさんの人の思いを活字に組んで、手渡してきた三日月堂の弓子さん。そのおかげで多くの人が救われたり、自分の道をみつけることができたのですが、最終話は弓子さん自身の物語です。

『雲の日記帳』で登場した水上さんの文章を活版印刷で本にすることになった。実は水上さんは余命わずか。彼が生きている間に本を作らなければならない。

けれどそのためには今の仕事をこなしつつ、印刷機を動かせる悠生さん、アルバイトの楓さんにも無理をさせることにもなり、弓子さんは三日月堂の今後と、じぶんの人生の岐路に立つことに。

現代の活版印刷は


「活版印刷で本をつくる」作業は現代のDTPとは比べ物にならない大変な作業。文字一つ直すにも活字を入れ替えなければならず、文字がページを挟むとその修正作業は膨大に。

だけど、古いやりかたのまま作業をするのではなく、校正、校閲までをデジタルで行い、文章の最終版を活版印刷で組めば作業時間の短縮につながるとアルバイトの楓さんが提案したことで作業は少しラクなりました。とはいえ、大変な作業にはかわりはないのですが。

古い技術と現代のシステムが合わさって「現代の新しい活版印刷」ができるのってすてきなことですね。古いばかりにしがみつくのではなく、便利なものは使っていく。これこそ温故知新の最たるものだと思うのです。

大人の科学マガジン 小さな活版印刷機 (学研ムック 大人の科学マガジンシリーズ)

中古価格
¥3,200から
(2018/8/12 19:28時点)




そうしてできあがった三日月堂のはじめての本。余命の少ない水上さんは、本のお礼にと店をを若者たちに託し、弓子さんにちょっとした魔法をかけて去っていきました。

すべてが終わった後、弓子さんは悠生くんに思いをつたえようと…。

このあとはぜひ、読んでみてください。こころがほっこりあたたかくなります。

活版印刷三日月堂シリーズ


『活版印刷三日月堂 星たちの栞』
『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
『活版印刷三日月堂 海からの手紙』
『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
『活版印刷三日月堂』の舞台を訪ねて

JUGEMテーマ:オススメの本

2018.05.30 Wednesday

戦前の少女雑誌の美しさ『彼方の友へ』伊吹有喜

戦前、中原淳一や少女たちに絶大な人気を誇った雑誌『少女の友』をモチーフとした伊吹有喜さんの『彼方の友へ』

昭和十二年、憧れの雑誌『乙女の友』で働くことになった少女・波津子の成長と、憧れの編集部の人々や当時の雑誌づくりの様子が戦争へと向かう当時の情勢とともに描かれていきます。

彼方の友へ
彼方の友へ
posted with amazlet at 18.05.29
伊吹 有喜 実業之日本社 売り上げランキング: 148,605


『彼方の友へ』あらすじ


卒寿を超え、老人福祉施設で暮らす佐倉ハツ(波津子)。ある日彼女に美しいカードの贈り物が届く。それはかつての少女雑誌『乙女の友』の付録『フローラ・ゲーム』だった。

昭和十二年。行方不明の父に変わり家計を支えるため、波津子は音楽家の女中をしていた。密かな楽しみは印刷所につとめる幼なじみが内緒で持ってきてくれる『乙女の友』だけだった。
ある時遠縁のおじから『乙女の友』編集部での仕事を紹介される。しかし、男子社員を望む有賀主筆からも編集部からも疎まれ、波津子は途方に暮れるが、憧れの挿絵画家・長谷川純純司だけは彼女をかばってくれた。

波津子は編集部で働くため、おさげ髪を切り落とし、自転車を駆り、有賀たちの役に立つため奮闘する。

昭和十五年、雑誌の人気挿絵画家であり、波津子の理解者でもある長谷川純司が「(戦争の)時流にそぐわない」と雑誌を降板することになる。

昭和十八年、戦争が激化するにつれ、仲間や友人、美しい詩や絵が波津子の周りから消えてゆき、さらに憧れの有賀も出征することになり…

『少女の友』


モデルとなった『少女の友』は、吉屋信子、川端康成など、当時一流の作家が寄稿し、少女雑誌の枠を超えた文化レベルの高い雑誌でした。作家の田辺聖子さんも愛読していたそうです。

『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション

中古価格
¥751から
(2018/5/30 17:33時点)




シンデレラも楽じゃない


波津子の人生は、貧しい女の子が苦難を乗り越えて幸運を掴む、シンデレラストーリーではあるのですが、実は憧れの人と働ける幸運を手にしてからのほうが大変でした。

女の子だと舐められて原稿を渡してもらえないし、有賀を慕う女流作家からは疎まれるし、学歴がないため恥ずかしい字の間違いしたりと波津子の編集部での仕事は前途多難、悪戦苦闘の連続です。

遊びで書いた物語が採用されて雑誌連載を依頼されてもプレッシャーで原稿を落としたり、周りからは批判されてしまいます。現代とは違い、働くことになれていない昭和初期の女の子ですから、かなりの重圧だったでしょう。

けれども、波津子はがんばります。それは支えてくれた有賀主筆のため。有賀が戦争に行ってからは雑誌の灯火をけさないよう、必死で雑誌を守り続けます。

最後はちょっと報われたかな。それにしても戦争は美しいものを根こそぎに奪い取っていきますね。
戦争によって文化奪われていく恐怖、不安感が読んでいてひしひしと伝わってきます。

美しい昭和の雑誌付録


戦前の『少女の友』付録を復刻した『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セットは、『彼方の友へ』に登場する「フローラ・ゲーム」のモデルとなった「フラワーゲーム」のほか、花言葉のしおり付きカード、すごろくなど。

当時の少女たちは、たとえ美しいものが禁止されても、隠したり、疎開させたりして雑誌を守り通していたそうです。

『少女の友』中原淳一 昭和の付録 お宝セット

新品価格
¥15,119から
(2018/5/29 23:06時点)




欲を言うなら、「男装の麗人」はいらなかった


伊吹有喜さんは大好きな作家なのですが、モデルとなる人物が実在する場合、モデルの個性に登場人物が引っ張られているように感じ、そこがちょっと引っかかってました。(『カンパニー』のE○ILEとか、熊○哲也とか)

でも、今回は中原淳一や川端康成という実在の人物をモデルとしていても、違和感なく物語に入ることができました。

あえて言うなら「男装の麗人・翡翠」はいらなかったかも。あの当時男装の麗人といえば女スパイ川島芳子しか思い浮かびませんし、彼女は個性が強すぎるので扱いが難しい。登場も中途半端な気がします。スパイ云々の描写がなくても、「乙女の友」の編集部の物語だけで十分だったのではと思うのですが。

男装の麗人・川島芳子


川島芳子は清朝の王族で日本人の養女となり、清朝復活のため日本のスパイとなった有名な人物。その人生は何度もドラマ、映画、舞台で演じられています。

男装の麗人・川島芳子伝 (文春文庫)

中古価格
¥40から
(2018/5/30 17:02時点)




有賀主筆のその後についても気にかかるところですし、ぜひ別の視点でスパイ仕立ての「彼方の友へ」続編を書いてこのモヤモヤをすっきりさせていただければと思います。

JUGEMテーマ:オススメの本



伊吹有喜作品 感想


『彼方の友へ』
『今はちょっと、ついてないだけ』
『BAR追分』
BAR追分シリーズ2『オムライス日和』
BAR追分シリーズ3『情熱のナポリタン』
『ミッドナイト・バス』
『なでし子物語』
『風待ちのひと』

2018.04.11 Wednesday

八咫烏シリーズ外伝『まつばちりて』阿部智里

人に变化する力をもつ八咫烏の世界を描いた、八咫烏シリーズ外伝『まつばちりて』読了。本編『烏は主を選ばない』の登場人物・松韻の物語です。

※八咫烏シリーズ外伝は、2018年現在、電子書籍のみの販売です。
自分にあった電子書籍えらびのコツ

Amazon Kindle版

八咫烏シリーズ外伝 まつばちりて【文春e-Books】




楽天Kobo版

八咫烏シリーズ外伝 まつばちりて【文春e-Books】【電子書籍】[ 阿部智里 ]

価格:200円
(2018/6/20 21:58時点)
感想(0件)




烏は主を選ばない

『まつばちりて』あらすじ


八咫烏の世界「山内」でも下層の「谷合」、そこの娼家で生まれた「まつ」は女郎になる運命を背負った少女だった。しかし、金烏の正妃・大紫の御前に見出され朝廷で働く「落女」となるよう教育を受ける。「落女」とは女の戸籍を捨て、男の名で務める官吏のことだった。

やがてまつは松韻と名を変え、大紫の御前に使える落女として出仕する。しかし、朝廷には彼女に対抗する蔵人・忍熊がいた。ことあるごとに対立しつつも、お互いの才覚を認め合うふたりだったが、ある時忍熊からの「松韻を還俗させ、わが妻にしたい」と驚くべき申し入れにより、松韻の運命は大きく変わっていくことに…。

声に出さない、大人の恋愛


これまでの外伝は若者たちの片思いや友情、あるいは家族の物語であったのですが、これは大人の濃厚な愛の物語です。

松韻は大紫の御前派、忍熊は敵対する派閥。愛の言葉など交わしたことがない、決して交わらない松韻と忍熊の愛はだからこそ濃密で美しくもあり、そして悲しくもあります。

相手の書く文字の美しさ、力強さに惹かれたり、対立をしつつも一定の安定感を保っている関係は、声に出してしまっては成立しないのかもしれない。松韻が窮地に陥った時、忍熊がとった行動はほかの誰にもわからなかったけれど、松韻にだけは伝わっていた。だからこそ松韻も、その愛に応えたのでしょう。

大人の悲恋は美しく、悲しかったのですが、欲を言えばもっと朝廷でのエピソードや、2人の関係をもっと書いておいてほしかったかな。短編だから仕方がないのだけど、後半ちょっと性急過ぎる気も…。

文字や和歌で心を交わすのは、平安貴族も同じですね。「超訳百人一首 うた恋い。」の清少納言と藤原行成を思い出しました。
超訳百人一首 うた恋い。3

超訳百人一首 うた恋い。3
杉田 圭 KADOKAWA/メディアファクトリー (2012-04-17)売り上げランキング: 74,480


この物語では、女を捨てて男として出仕する「落女」という設定が興味深いです。中国宮廷の宦官と似ているようだけれど、あれは「男の機能」を捨てるだけなので、またちょっと違うかな。
女が男の仕事をする、というのはよしながふみさんの「大奥」シリーズに近いのかもしれません。

大奥 1~最新巻セット(JETS COMICS )
売り上げランキング: 123,438



いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

新品価格
¥1,512から
(2018/5/2 01:00時点)




八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『玉依姫』
『弥栄の烏』
外伝『すみのさくら』
外伝『しのぶひと』
外伝『ふゆきにおもう』
外伝『まつばちりて』
外伝『あきのあやぎぬ』

JUGEMテーマ:ファンタジー



2018.02.20 Tuesday

『眠る盃』向田 邦子

相変わらずはまっっている向田邦子。『眠る盃』は向田邦子さんの各種雑誌に寄稿されたエッセイ集なのですが、すごいんですよこれが。

その雑誌が多種多様。名エッセイ『父の詫び状』を発表した『銀座百点』から文春などの文学雑誌から、『anan」、『ジュノン』などの若い女性向けの雑誌、『マダム』から『わたしの赤ちゃん』まで。あらゆるジャンルの傾向にあわせたテーマで書かれているのもすごいけれど、それでいて向田さんらしさが文章からにじみ出ていている。

そういえば今の作家さんて文芸雑誌以外でエッセイを書くのをあまりみたことがないような。(私が知らないだけかな?)こうして出されるさまざまなお題に対して、肩肘張らず、すうっと入り込める文章を書けるなんて、やはりこの人はすごい。

新装版 眠る盃 (講談社文庫)
向田 邦子 講談社 (2016-01-15)売り上げランキング: 218,023


眠る盃


タイトルにもなった名エッセイ。「眠る盃」とは向田邦子さんが滝廉太郎の「荒城の月」の歌詞「めぐる盃 」を「眠る盃」と勘違いをしていたこと、「自分はよく勘違いをして覚えている」と続くのだけど、面白おかしいのかと思いきや、このあとの文章が実に美しいのです。

「眠る盃」から連想された話は、昭和の向田家の酒宴の思い出につながり、春の夜、酔客が帰ったあと眠りこけた父親と世話をする母親、父の膳には酒の残った盃が置かれている。まるで詩のように美しい。
「酒と水とは違う。ゆったりと重くけだるく揺れることを、このとき覚えた」

以来、日本酒を飲むたびこの一文を思い出しています。


ツルチック


アマゾンに旅した際、現地の飲み物で思い出した「ツルチック」なる飲み物。向田さんが幼い頃父親がどこからか手に入れてきたらしい。家族に聞いてもわからず幻の飲み物のようだったが、雑誌に掲載された途端、多くの人から「知っている」との連絡が来た。

「ツルチック」は「ツルチュク」という朝鮮半島でつくられた飲み物らしいということがわかり、関係者が様々な情報や資料が送られてきた。中には詩人の谷川俊太郎氏もいた。

というお話なのだけど、驚くのは向田宅に一般の人からたくさんの電話や手紙が送られてきたこと。当時はまだ、個人情報やストーカー規制などがなかったとは言え、絶え間なく電話がかかってくるのは大変だったでしょうねえ…。


ananに掲載された男性鑑賞法


向田邦子さんが様々なジャンルの男性を紹介する文章。俳優や脚本家など芸能界の人間はもちろんですが、美術商や馴染みの魚屋まで、登場する男性の職業もさまざま。(実は魚屋さんの人生が一番意外で面白かったりする)
今だったら絶対企画通らないだろうな…。

当時のanan読者たちはこんな贅沢な文章が雑誌で読めたのがうらやましい限りです。

悼む人の仲間入り


もう40年近くも前に飛行機事故で亡くなられた向田邦子さん。文庫の解説でも名だたる著名人たちがその早すぎる死を何度となく悼んでいます。おそらくファンの方々も何度となくそう思ってきたことでしょう。
私もまた、その一人に加わりたいと思います。

新装版 父の詫び状 (文春文庫)
向田 邦子
文藝春秋
売り上げランキング: 10,594

2018.02.07 Wednesday

八咫烏シリーズ外伝『ふゆきにおもう』(ネタバレ)

八咫烏シリーズ外伝『ふゆきにおもう』。『烏は主を選ばない』の主人公・雪哉の出生にまつわる物語です。

『烏は主を選ばない』から八咫烏シリーズの重要な役割を担ってきた雪哉。一見、明るく飄々としているけれど、俯瞰的に物事をみる目と、明晰な頭脳を持つ少年で、若君からの信頼も厚い。

そんな彼の能力は、実は2人の母親から受け継いだものでした。

『ふゆきにおもう』あらすじ


北領・垂氷郷の郷長の下の息子2人が行方知れずになった。母親の梓は必死で探すものの見つからない。そんな時・息子雪哉とその母親・冬木の噂を耳にした梓は、北本家の姫・冬木のことを思い出す。

梓は昔、冬木に仕えていた侍女だった。冬木は病弱ゆえ、意地のわるいところがあったが、梓のように気に入ったものや、小さく無垢なものにはやさしかった。そして、俯瞰的に物事を見る目と、明晰な頭脳を持っていた。

ある時2人の前に垂氷郷の嫡男・雪正が現れた。健康的で誠実な雪正に惹かれた冬木をおもい、梓は雪正と冬木の縁談を申し出る。しかし、雪正が思っていたのは梓の方で…

Amazon Kindle版

八咫烏シリーズ外伝 ふゆきにおもう【文春e-Books】




楽天Kobo版

八咫烏シリーズ外伝 ふゆきにおもう【文春e-Books】【電子書籍】[ 阿部智里 ]

価格:200円
(2018/6/23 00:03時点)
感想(0件)




2人の母


『烏は主を選ばない』では、雪哉の母は侍女だった梓と夫雪正へのあてつけとして、無理やりに雪哉を産み落として死んでいった、と語られました。

けれども、そこには冬木の計算があったのです。ただ純粋に自分の子を生みたい、という思いと梓への信頼。自分が死んだあと梓が雪哉を守ってくれるだろうと。だから2人を恨む芝居を打って雪哉を産み落としたのでした。

このふゆきの計算高さと、自分の評価より目的を優先する行動力、それが雪哉に受け継がれたのでしょうね。

『しのぶひと』で結婚相手の条件として「自分に何かあった時頼れる実家があり、夫婦間に恋愛感情を持ち込まないこと」という表現も若宮の影響もありますが、やはり冬木の遺伝なのでは。

そしてもう一人の母、梓からは思いやりと思いやりを受け継いだ気がします。
この母がのおかげで、雪哉は垂氷郷でなんとかやっていけたのだし、『黄金の烏』でも相手への思いやりについて教えられています。(その時は暴走しましたが…)



いよいよ八咫烏シリーズ外伝『烏百花 蛍の章』の発売が決まりました。これまでの短編に加えて書き下ろしも。

烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

新品価格
¥1,512から
(2018/5/2 01:00時点)





八咫烏シリーズ


『烏に単衣は似合わない』
『烏は主を選ばない』
『黄金の烏』
『空棺の烏』
『玉依姫』
『弥栄の烏』
外伝『すみのさくら』
外伝『しのぶひと』
外伝『まつばちりて』
外伝『あきのあやぎぬ』


Calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< December 2018 >>

オススメ

おすすめ記事

検索

Archive

Selected Entry

Comment

  • ビブリア古書堂、その後の物語。『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち』三上 延
    日月
  • ビブリア古書堂、その後の物語。『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち』三上 延
    latifa
  • 読者という希少種を、作家と出版社が奪いあう…というSFが読みたい
    日月
  • 読者という希少種を、作家と出版社が奪いあう…というSFが読みたい
    あひる
  • ゴッホを支えた日本人『たゆたえども沈まず』原田マハ
    日月
  • ゴッホを支えた日本人『たゆたえども沈まず』原田マハ
    latifa
  • バリューブックスで古本買取。送料無料で簡単。
    日月
  • バリューブックスで古本買取。送料無料で簡単。
    latifa
  • 「無伴奏ソナタ」 オースン・スコット・カード
    kazuou
  • いよいよ完結『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』三上 延
    latifa

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM